ブラックミュージック界の巨星ディアンジェロの早すぎる死に近田春夫と適菜収はなにを感じたのか!?【近田春夫×適菜収】
【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第10回
■35年前に大ヒットしたラブソング
近田:時間が経つのはあっという間。「光陰矢の如し」という言葉もあるけど。
適菜:以前、「ジャネの法則」の話をしたじゃないですか。たかだか80年前の敗戦を昔のことのように感じるのは、白黒映像も関係しているような気がします。現在と同じくらい鮮明な映像が残っていれば、それほど昔のことだとは感じないのかと。学生のころ、昔の世界は白黒だったと本気で思っているやつがいて、驚いたことがあります。よく、大学に受かったなと。でも、そういうやつは結構いるみたいです。
近田:最近、「35年前に大ヒットしたラブソング」みたいな記事がYahooとかに出てるけど、例えば1975年の35年前って1940年ですよ。2025年の35年前は1990年っていうのと意味違わなくないすか?
適菜:単に「歳をとったからそう思うようになった」というだけでは片付かない問題のような気がします。
近田:これは本当に難しい問題だよね。
適菜:「35年前に大ヒットしたラブソング」の10倍が350年前。350年前は1675年。そう考えると江戸時代もつい最近です。
近田:楽しいとあっという間に時間が過ぎるっていうじゃないさ。じゃ歳取るのって楽しいってことになるよね。
適菜:まあ、若い頃より、今の方が楽しいような気がします。勝手なことが言えるし。
近田:うん。
適菜:過去がそれほど身近なら、「昔のことだ」で片づけてしまうのは危ないですね。参政党なんて、歴史を捏造するどころか、つい2、3年前の悪事でも、「そんな昔のことを蒸し返すな」と言ってきますから。
近田:時間は存在するのかという話もあるけど、ひとついえるのは、今のところ過去にも未来も行けない。この今の一瞬しかないってことだね。
適菜:保守主義の文脈だと「今」を強調しますね。
近田:時間について考えるのは今のところ一番面白い。
適菜:時間についておすすめの本はありますか?
近田:素直にプルーストとガルシア・マルケスってことになるのかなぁ? 月並みで申し訳ないけど。
適菜:時間は均一に流れないと。
近田:そこ! 主観的にしか語りようがないってことよ。
適菜:脳内現象ですからね。
近田:だけど一方で単位というか、物理的時間は存在してるじゃん。時計とかあるんだから。5分の長さって、5センチみたくは表せないから困る。
適菜:資本主義が均質的な時間を要請したという話は、ベネディクト・アンダーソンを始め、ナショナリズム論ではよく語られていますね。